内田繁展・2009 にゆらぐ


大きなポスターの案内状が届いた。
ぼやけたもの・霞んだもの・透けたもの・ゆらいだもの。
自然・宇宙・地域・民族をイメージした写真に相反するかのよう
にあるいは不思議にマッチしてしまう冒頭の文字にひかれた。

去る2007年12月松岡正剛氏が主宰する連塾の【浮世の赤坂
草紙】で浅葉克己氏デザインによる「雨にむかいて月を恋ひ」
の屏風を背に江戸唄を弾き語りしたことがあった。その時出演
なさった内田繁氏から暮れのある日思いがけなくお手紙と「普
通のデザイン・日常に宿る美のかたち」の白い折り形のような
美しいご著書が届いた。
唄もデザインも形が問題なのではなく自然と人の心に向かうも
のなのですね・・・のようなニュアンスの言葉をいただいたよう
な記憶がよみがえり7月14日のレセプションパーテイに華やか
なところが苦手にもかかわらず夕風が涼しい西麻布の坂に佇
むギャラリ−ル・べインにうかがった。

デザインは記憶を媒介として存在しないもの・見えないものを
存在させる行為。寂しさ・儚さ・心細さがあるからこそ人は愛し・
慈しむ。そうした心のありようを美に転換したのが日本の文化
である。変化の相という日本の観念はこの世の一切のものは
生滅・変化して常住ではないという無常観から生まれたもので
ある。
2年前 暮れの大掃除もそこそこに私が日頃大切に思っている
ことや唄に滲ませたいことが行間に溢れているのを夢中でペ
ージとともに掬っていったことを今更のように思い出し内田氏
の柔和な笑顔と美味しいワインにゆらいだひとときであった。

                                                                        (2009年7月20日)